村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

多崎つくるは自分を空っぽの存在だ、というけど、仮にそうだとしても、そのこと自体が理由となって(「色彩を持たない」からこそ)、5人グループの調和を図ってきたのであるな。

 

10代後半という、一般的には人生のかなり早い時期に絶望して、はたから(少なくとも私から)見ると成功した人生を送っているようには見えるが、だれにも何にも期待せずの諦観が彼の人生を支配していた。恋人になりつつある沙羅に促され、かつての友人たちに会いに行くが、やっぱり、温かい再会だったとしても、失われた日々は取り戻せない。でも前を向いて生きていくしかない。人生は容赦なく続いていく。

 

それでも多崎つくるは、空虚な気持ちながら一人で生きてきた強い人で、巡礼によって、過去取り戻すことはできなくても、感情を取り戻すことができてよかったと思う。

 

2020/10/30読了

村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文春文庫)